不動産が複数ある相続で揉めないための遺産分割の考え方

相続財産のなかでも、特にトラブルになりやすいのが「不動産」です。そして不動産が複数ある場合、相続人の意向や評価額、管理のしやすさなどの事情が複雑に絡み、遺産分割協議が長期化しやすくなります。

「どのように分けるのが公平なのか?」
「共有にすると将来困る?」
「売却した方がよいのか?」

1.不動産の遺産分割が難しくなる理由

不動産は、現金のように均等に割ることができない財産です。そのため、複数の不動産があると、次のような問題が生じやすくなります。

1-1 不動産ごとに評価額が異なるため、公平に分けにくい

不動産はそれぞれ評価額に差があり、一人一つずつと公平に分割することができません。そのため、話し合いがスムーズにいかないこともしばしば起こります。

1-2 共有名義は将来トラブルになりやすい

分割方法が決まらない場合、法定相続分のとおりの持分割合で共有にするということもありますが、共有は次のような問題を抱えています。

  • 売却するには共有者全員の同意が必要なことが多い(持分のみを買い取る不動産業者もあるが、相場より安くなりやすい)
  • 修繕・建替えなどの管理に意見の不一致が起きやすい
  • 相続が発生すると共有者が更に増えてしまう

1-3 維持費(固定資産税・管理費)が発生する

不動産を引き継ぐと、

  • 固定資産税
  • 修繕費
  • 管理費
  • 駐車場代(マンションの場合)

といった費用が長期的に発生します。「相続したい人がいない」不動産が含まれていると、誰が負担するのかで揉めるケースが少なくありません。

2.不動産が複数ある場合の4つの代表的な遺産分割パターン

ここからは、実務でも特に利用される4つの分割方法を解説します。それぞれのメリット・デメリットを踏まえながら検討することが重要です。

2-1 【現物分割】不動産ごとに相続人へ割り振る

最も多いパターンが、不動産をそれぞれ相続人に割り振る方法です。

例)
長男:自宅
長女:アパート
次男:地方の土地

メリット

  • 不動産の管理責任が明確
  • 共有を避けられる

デメリット

  • 価値に差があると公平にならない
  • 相続人全員の合意が必要

価値の差を調整できない場合、後述する代償金を組み合わせるとバランスが取りやすくなります。

2-2 【代償分割】不動産を受け取る相続人が他の相続人へお金を支払う

不動産は欲しいが、価値の差が大きい場合に有効なのが代償分割です。

例)
長男が自宅(評価2,000万円)を相続し、兄弟に差額分の金銭(例:500万円)を支払う。

メリット

  • 相続分の不公平をお金で調整できる
  • 不動産の共有を避けられる

デメリット

  • 代償金の支払い能力が必要
  • 相続人の間で金額の算定で揉めることがある

注意点

  • 代償金額は「不動産の評価方法」を明確にすることが重要
  • 遺産分割協議書には金額や支払時期を明確に記載
  • 代償金受領の証拠(領収書など)を残しておくと安心

2-3 【換価分割】不動産を売却して現金で分ける方法

不動産を売却し、売却代金を相続人で分ける方法です。

メリット

  • 現金化されるため公平に分けやすい
  • 不動産の管理負担がなくなる
  • 相続人同士の感情的な対立が起きにくい

デメリット

  • 売却に反対する相続人がいると成立しない
  • 市場状況により売却額が変動する
  • 売却所得に税金がかかる可能性がある

注意点

  • 相続登記を売却する前提として行う必要がある(同時に行うことも可能)
  • 譲渡所得税等の税金は税理士に相談しておく

2-4 【共有】相続人全員で不動産を共有する方法

「協議がまとまらない」「とりあえず急ぎで遺産分割を終えたい」
そんな場合に選ばれるのが共有です。

メリット

  • 相続人全員が平等に権利を持つ
  • 協議がまとまらないときの一時的な手段として有効

デメリット

  • 売却・修繕・建替えのたびに同意が必要
  • 時間がたつほど問題が複雑化する
  • 将来の相続で共有者が増え、事実上管理不能に陥ることも

将来的なトラブルを避けるためにも、可能であれば他の方法を検討すべきでしょう。

3.どの方法を選ぶべき?考えるべき判断ポイント

不動産が複数ある場合、どの方法が最適かは相続人や不動産の状況によって異なります。以下のポイントを考慮すると、後悔しにくい判断ができます。

3-1 相続人の居住状況を優先する

特に「誰がその不動産に住んでいるか」は重要な判断基準です。既に居住している相続人がいれば、そのまま相続させることが自然であり、他の相続人は代償金で調整するなどの方法が考えられます。

3-2 不動産の評価額や売却可能性を検討する

  • 市場価値
  • 将来の資産価値
  • 修繕の必要性
  • 土地の流通性(売りやすさ)

などを総合的に考える必要があります。

3-3 相続人それぞれの希望と経済状況を考える

代償分割を選ぶ場合、支払能力の有無が大きな要素になります。維持費の負担や、将来の活用方法なども議論する必要があります。

4.まとめ

不動産が複数ある相続では、

  • 現物分割
  • 代償分割
  • 換価分割
  • 共有

という主に4つの選択肢があります。どれが最適かは、不動産の種類・相続人の希望・経済状況などによって異なります。

相続や遺産分割についてお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。必要に応じて税理士や弁護士等の専門家を紹介することも可能です。

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